まずは以下の36秒の動画を見て下さい。
小気味よいテンポで作られたCM。しかし、これは「プロ」が作ったものではありません。東芝が主催する東芝ノートPC CMコンテストという 動画コンテスト に投稿された広告、所謂"Consumer Generated Ad"(消費者作成広告)なのです。
もう一つあります。
いかがでしたか? 素人の作った CM とはいえ意外に面白く見られてのではないかと思います。
動画コンテストとは?
Youtube などの動画共有サイトが普及して、誰でも一般に動画を公開できるようになりました。こういうのを消費者がメディアを作るということで消費者生成メディア(CGM)ともいいますね。
その中から企業広告としての価値のある動画が出現しました。企業と関係なく作られたこれらは「勝手広告」とか「消費者作成広告」呼ばれているらしいです。以下のメントスやZ会のものが有名なようです。
どうでしょうか? 素人が作った物とはいえなかなか面白かったのではないでしょうか?(実は、私個人はZ会のはつらかったですし、メントスのも「もったいないな」と思っていやでしたが、それでも面白さは分かります)
こうした消費者が作る広告に価値を見出した企業としては、今回の東芝さんのように、消費者が広告を作るのを奨励するために 動画コンテスト を実施しているというわけです。
揺らぐTVCM
TVCM には莫大な費用がかかります。大学生の頃、広告論の授業で TVCM 撮影の現場を見学したことがあります。菊川怜さんが主演(?)の保険会社の TVCM でした。数十秒しかない TVCM に時間と費用がふんだんに利用されていることを学びました。制作費に数千万円、タレント出演料で数億円、更に放映するTV局の枠(スポット/タイム)を買うために数億円がかかるとのことでした。
しかし、こうしたTVCMの効果に疑問があるのも事実です。パナソニックは2005年の年末、ボーナス商戦まっただ中の10日間、一切の広告をやめたそうです。しかし、松下の主力製品「ビエラ(薄型プラズマテレビ)」の売れ行きは落ちなかったらしいのです(参照)。トヨタも2005年に北米で一番売れた車種が TVCM を一切打たなかったものだったとのことです(民放の根幹を揺るがす、ある“深刻な”事態(1)〜テレビCMの限界が見え始めた - ビジネススタイル - nikkei BPnet)。もちろん、すべてのTVCMが無駄とは言えませんが、既に知名度のある商品ではTVCMの効果が少ないことがあるようです。
また、TVCM を飛ばす機能が高性能になってゆけばこれも TVCM にとっては危機です。
視聴者主導だから「面白い」と感じる
消費者作成広告・勝手広告が力を発揮するのは、逆にそうしたブランド力のある商品に対してでしょう。知らない商品やサービスの広告と言われても見る気はしませんが、既に知っていものに対して「何かおもしろそうだ」という印象が与えられれば、その動画を見て、更に細かい情報へのリンクを辿れるというわけです。
どうでしょうか? 実際に上の動画を見て面白いと思い、いくらかの情報を摂取したのではないでしょうか? これはウェブがユーザ主導だからありえる効果だと思います。垂れ流しでは「面白い」という実感を得にくいのですが、自分でクリックして自分で見ている動画では「止める」という選択肢のある分、「面白い」という感覚を得やすいのではないかと思います。
そうして自分で「面白い」と思ったものは紹介したくなるものです。ブログなどで取り上げられることもあるでしょう。CMを紹介するなど一部のタレントのファン以外では、TVのものでは考えにくいことですが、ネットの動画では逆にユーザ主導の手間がある分、起こり得ることなのです。
そうなれば、企業、CM作成者、視聴者(=紹介者)の誰にとってもいい話です。
もちろん、ネガティヴなイメージが与えられないとも限りませんし、そうした否定的なメッセージが youtube などに掲載されて人気を集めてしまうかもしれません。企業が消費者生成広告を後ろ押しするのは諸刃の剣でもありえます。POLAR BEAR BLOG: CGM広告は是か非かにはそうした否定的な面を列挙してあります。そこにあるハインツのネガティヴな動画もご覧下さい。
CMを作る楽しさ
動画編集のための装置がどんどん低価格化して、誰でも動画を作れる時代になっています。数年前では考えられないことです。
動画を作るのはとても楽しいのです。自分で作り込んだ映像をディスプレイで見るのは不思議な高揚感があります。
しかし、実際に人に見せられる映像を作るのは大変です。私も数年前に Adobe Premiere や AfterEffect などを利用して動画編集をしていましたが、内容のあるものを作るにはコンテを切り、人と物を準備しなければならず大変なものでした。
ところが、CMであれば時間も短く、アイディア一発で作ることが出来ます。しかも、それを応募する動画コンテストがあるのならモチベーションもあがります。
これからは趣味で CM を作る人が増えていくかもしれないなと思いました。