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日本が世界に誇るスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」のセンター長を務める筆者による、シミュレーション技術、更には科学そのものについての概説。
昔、世界を記述する方程式が発見されるとかされないとか話したものだった。それが最近では、アルゴリズムになっているのだと感じた。
筆者は、科学がかつて何であり、これからはこうなってゆくという未来を語る。古代の祈りや占いからの「知性」の起こりから、科学の発達を説く。そして、現在の科学の要素還元パラダイムの限界と、ホリスティック・パラダイムへの必要性を説いてゆく。
次に、そうしたホリスティック・パラダイムを実現するために必要なコンピュータ・シミュレーションの歴史を概観する。地球コンピュータが誕生するまでの経緯も綴られる。
ポイントとしては、従来の要素還元型の科学では「落し物」があり、コンピュータ・シミュレーションなら全てを扱えると言うわけである。人類は、未来を予測する技術を手に入れるというわけである。そうなると当然に人間の認識も変わると筆者は訴える。
コンピュートニク [地球シミュレータのあだ名] が二十一世紀の科学技術のあり方、ひいては、人間の生き方・考え方や価値判断(パラダイム)までも、大きく変える可能性をもっているということである。(p.17)
こうして現れる次のパラダイムを「シミュレーション文化」と呼ぶ。シミュレーションによって未来が確実に予測できる時代の文化である。
初期値の入手や有効なアルゴリズムの発見、情報の解像度と計算能力などによる問題はさておき(既にかなり高い精度で地球規模の現象を予測できているらしい)、こうした「シミュレーション文化」とは文系的にはなんなのだろうか。そうした時代の人間はどうなるのだろうか。筆者はシミュレーションが個人の生活にも関係すると述べている。
筆者が今後期待するのは、個人というレベルでもシミュレーションが活用されるようになる未来である。あたかもアドベンチャーゲームやシミュレーションゲームを楽しむかのように、自分自身の未来に夢をたくして行える、真剣なる人生の上でのシミュレーション。(……)「生き方」といったものをシミュレートするようになる世界。そんな「シミュレーション文化」に支えられた時代がくる物と、信じているのである。
シミュレーションは既に環境問題など政策決定に影響を与えているのがテレビを見ていると感じる。今後そうした機会は増えていきそうだ。こうした時代を生きることを考える上でも、本書は手にとって見るとよいと思う。
未来を予測する技術
- 佐藤 哲也
- ソフトバンククリエイティブ
- 735円
書評/サイエンス