もう少し「世界恐慌」の現状を追ってみる。今回は公金注入が蹴られたことと、ドルそして財務省証券について。
公的資金の導入は既定路線だと俺は思っていたが外れてしまった。正直驚いた。それを受けてのダウ30種平均が先週末の終値と比べ $777 の過去最大の下げ幅という暴落とあいなった。日本のマスコミでも「世界恐慌」という単語がおどりはじめたようだ。
「で、お前は公的資金注入は賛成だったの?」という質問に最初に答えておくが、答えは「イエス」だ。もちろん「世界経済」というやつを、俺が持続させたいと考えているとしたらの話だが。
確かに俺は 投資銀行モデルの終焉とアメリカの危機 では「公的資金の注入」と「空売り規制」とを「麻薬」と指摘した。しかし、公金注入の私の認識は「政治的な難しさ」と書いた。これは 2 つあり、一つは、ずるずるとやるとモラルハザードとなることと、もう一つは、初期に公金注入の悪印象を作ってしまうとその後の公金注入がしずらくなるということだ(これは日本でも同じだった)。むしろ、この初っ端から政治的にコケてしまうとは思わなかった。
これは大統領選の前ということが大きく影響したのだろう。間接民主主義は多数決じゃない。俺たちは民意というやつを形成できる知性を選ぶのであり、直接に個別の政策なんて選ぶことじゃない。そんな時間も能力も一般の人は持っちゃいない(俺もそうだが)。だから、選挙で選ばれた政治家が政策を考え議論する。一方で、メディアはそうした政治家がしっかりやっとるかをチェックして有権者に伝える(もしメディアが「日本は単一民族」とか言ってる知識不足&偏見発言な方を報道しなければ、大臣から外されたりすることもない)。
しかし、選挙の前にはそうした間接民主主義が崩れ、なぜか多数決の世界になってしまう。だから選挙の前だけ政治家は多数決受けするような言動に出る。つまり飴をぶらさげられるだけぶらさげる。ここで衆愚化が起こるのは避けがたいというべきか。米国民は公的資金注入による負担を免れたかもしれないが、それによる景気後退による長期に渡る損益を受けることになると思う。これも日本で政情が不安定な状況で公金投入を避け続けたことで、日本の不況が長期化したこととと同じことだと思う(ちなみに俺は「燃えるときゃ、燃えてみんな死んじまえ」な公金反対派だし、間接民主制にも「それって欺瞞じゃね?」と思い反対であり投票はしないことにしている)。
ところで、俺の興味はカネにある。つまりドルってどうなるの? という問題と、そのドルを裏付ける財務省証券、つまりアメリカの国債だ。アメリカはこれ以上借金をしてどうするのか? というか、できるの? という次元である。
まずドルの流動性を確保しようとFRBと各国中銀が連携通貨スワップ協定を締結、日銀も歴史上始めてドルを市場に供給している。日経によれば日銀、短期市場に3兆円供給 10日連続、累計21兆円超とのことで「日銀による即日の資金供給は米大手証券リーマン・ブラザーズが経営破綻してから10営業日連続で、総額は21兆1000億円に達した」とのことだ。また、当初6兆円だったドル供給は日銀、ドル供給を12兆円に倍増 米欧の中銀と協調 (AFP)ということになった。通貨スワップ協定の各中銀別の最大供給額は以下の通り。
ECBが2400億ドル、カナダ中銀が300億ドル、英中銀が800億ドル、日銀が1200億ドル、デンマーク中銀が150億ドル、ノルウェー中銀が150億ドル、オーストラリア中銀が300億ドル、スウェーデン中銀が300億ドル、スイス中銀が600億ドル。
しかし、そうした連携によってもドル資金市場は崩壊寸前、最後の貸し手FRBが膨大な資金供給へによれば、ドルの流動性は枯渇しきっており「金融機関同士がドルの短期資金を融通するインターバンク市場で、翌日物資金の貸し借り以外は取引が成立しないという異常事態が発生している」とのこと。
各国中銀からじゃぶじゃぶ放出される膨大なドルに対しても、金融機関はドルを放出せずに囲い込み中央銀行の口座に所要準備額を大幅に上回るドルを積み上げているらしく「超過準備は今年の4―8月には20億ドル前後で推移してきたが、ライトソンICAPの推計では18日の超過準備は1900億ドル前後に拡大したもようだ。」そして「超過準備に回らなかったドルは、とりあえず安全な米国債に投資されている」模様である。
つまり、徹底的にドルが流れていない。だから日銀も市場初のドルを流出させているわけだが、銀行はそのドルを中銀に積むか国債に突っこんでいるということだ。
一方でこの金融が不安定な状況で何かの切っ掛けでドル暴落というシナリオは常につきまとう。ドルの基軸通貨性云々という話やドル危機後の貨幣システムという話が次々と出てきている。既定路線として、多極化・多層化が進むのだろうと俺は考えている。
一方、同じく Reuters の 急膨張する米財政赤字、米国債のトリプルAは維持可能か | Reuters によると「米議会予算局は9日、2009会計年度(08年10月―09年9月)の財政赤字が4380億ドルに上り、過去最大になるとの改定見通しを発表し」とのことで、更にこの額には一連の金融期間への支援が入っておらず更に拡大するものだとしている。
折角90年代後半に黒字に戻した赤字だったが、このところはすっかり赤字がかさんでいる。その赤字拡大は更に進むと予測できる。こうした状況下、米国債の信用が低下するのは必然とのことで、私もそれは当然だと思う。先の記事でも、今後、米国債の増発は目に見えており、その需給バランスの悪化が懸念されると同記事も指摘している。
そんな国の国債に対して、まあ日本は出すだろう。日本だもん。いくらでも財務省証券を買うに決まっているよねえ(そんなATMみたいな国の国民なのは嫌だけど)。
問題は中国だと思う。中国はもう控え目になっているんじゃないかな。というか中国は海外投資が引き上げて普通に困ってるみたいだしBloomberg.co.jp: 海外投資資金は中国から流出へ、元の上昇抑制で-M・カーリー。新興国に米国を支えるような体力はないだろうと思う。
まず、新興国から資金が引き上げられ、その後で米国の資本逃避が起こるということか。
結構、本格的にアメリカ帝国の失墜という現象を目の当たりにすることになるのかもしれない。いくらなんでも IMF が登場するとは思わないが(だって、最大の株主だし、世銀のトップは常にアメリカで IMF はヨーロッパと決まってる)、それにしてもそうした大本が破産状態になったとしたら一体どういうことになるんだろうか。