2008-09-25

投資銀行モデルの終焉とアメリカの危機

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21日、米投資銀行1位のゴールドマンサックスと2位モルガン・スタンレーが銀行持ち株会社に移行することになった。これにより、主要な投資銀行は消え去り、投資銀行モデルの終焉が決定的となった。

自己資本規制の適用を受けずに資本市場から資金を調達し、ハイレバレッジな投資を行い、高収益を稼ぎ出してきた投資銀行だったが、今後、両者の監督権限は証券監視委員会から連邦準備理事会(FRB)に移り、自己資本規制比率に縛られることになる。これに伴い、主要な投資銀行が消え去っただけでなく、彼らの「ブラックボックス」も消え、残った両社もまったく違った存在になることだろう。

こうした危機的な状況下でアメリカ当局は公的資金の投入と空売り規制という二つの麻薬を打った。こうした処置は、短期的には痛みを和らげるが、公金投入が政治的に困難な問題であるのは90年代の日本を思い出せば明らかであるし、空売り規制は市場の流動性を大幅に損ねる。特に、空売りによって下げ相場での利益を確保する手法を得意とするヘッジファンドなど、常に利益を出さねばならないファンドは、そのいくつかが破綻に瀕しているという噂である(Bloomberg.co.jp:ヘッジファンド業界:空売り規制が打撃、成績は10年で最悪か-WP)。90年代、ワシントン・コンセンサス下で他国に押し付けた金融政策を思い出せば、そのあまりのダブルスタンダードに傍から見ても恥ずかしいほどだが、これだけの麻薬を打たねばならないほどに状況が危機的であることが分かる。

必要な処置は麻薬ではなく、本来の体力の増強である。それは具体的には不透明なレバレッジを外し、資本の信用を高めることに他ならない。そのためにはどうしたらよいだろうか?

まず、現在の金融の「リスキーな商品に手を出す」インセンティブ構造を変化させねばならないと思う。また資産価値や信用の低下が「雪崩を打つ」ために「ババを引きたくないから問題を先送りし、マクロ的には更に問題を大きくする」という構造にも問題があるだろう。少なくともこの2点の構造が改善されない限り、今回の問題は回復をみることは難しい。

第一の構造のためには社員や経営者への責任を追求する法律が必要だろう。局所的な視野で「成功」を収めたCEOへの「金色のパラシュート」をもう許してはならない。第二の構造のためには、資産価値の査定や保証に対し、当局の監視が必要かもしれない。そして、その査定に対し保険がきちんと効けば価値低下の雪崩は防げるはずだ。

さて、それにしても米国の地位低下を証明するかのように、今回の金融危機に対しての中東系・中国系の対応は静かなものである。去年CITIに8100億円投資したアブダビから声は聞こえてこないし、中国当局にいたっては米銀への貸出自体を規制するという報道まで出た(中国の監督当局、国内銀行に米銀への貸し出し停止を指示=香港紙 | Reuters)。香港の英字日刊紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによれば「今回の指示は、本土の大手金融機関の信用危機へのエクスポージャーが数十億ドル規模に上るとの報告を受け、中国政府が深刻化する米国の金融危機に対し、自己防衛に入ろうとする最初の動き」とのことである。MUFGがモルスタに9000億出資するように、日本が出資をしているのと大きな差である(ていうか、ちゃんとドューデリしたん?)

いまのところ日欧は米を助ける姿勢で一貫していると思う。しかし、それはどこまで続くのだろう。当初から問題視されている総額62兆ドルに上るという CDS 市場はどうなってしまうのだろう(ちなみに8/21現在の東京証券取引所第1部の時価総額は397兆5984億円日経: 東証1部の時価総額、400兆円割れ 約5カ月ぶり )。この爆弾が爆発すると大変なことになるということで AIG は救済されたというのが大枠の理解だが、実際にこの問題を軟着陸する術はあるのだろうか?

万が一、CDS が爆発したら、ドルが暴落し、キャピタル・フライトが起こるだろう。そうなると、どこかで、ヨーロッパすらも独自の道を選ぶタイミングがある気もする。そのとき、日本はどうするのだろうか? そのとき、アメリカの赤字を補填している」とも噂される財務省証券(米国債)を売ることが出来るのだろうか? それとも、その国債すら抱えたまま米国の属国として沈んでいくのだろうか?

大枠で考えると、現状は既に破綻していた米金融を処理しているだけで、ヨーロッパと中国、中東(と日本? アメリカ?)のマルチラテラルな世界システム移行は、ほとんど完了していると見るべきなのだろうと思う。米国経済のバブル崩壊は数年間言われ続けていたのにこれほどに問題が巨大ということはそう理解するしかないと思う。

それでもIMF、世銀のラインの問題は残るが。

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