2007-06-17

柔軟性を高めて深層筋を使う(1) 脊椎の力はすごい

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人間は脊椎動物の一種です。中枢神経(脳と脊髄)を守る頭蓋骨や脊椎(背骨)はとても重要であり、損傷が発生すればかなりの被害が出ます。

よく知られているように、脳を経由しないでも運動が起こります。

脊髄が中枢となって起こる反応を脊髄反射と呼びます。例えば、熱いものに触った時に無意識に手を離す現象が脊髄反射です。他にも、つまずいてバランスが崩れた時にも反射が起こります。人は脳を利用しなくても運動をするのであり、脊髄は脳と同様に大切なものです。

そうした基本的な運動をすら司る脊髄を収めた脊椎は、それ自体の運動能力も高いものです。

「胴体力」「深層筋」などと呼ばれる筋力は、主に脊椎の中心からの運動に関連したものです。脊椎の筋肉は、手足の筋肉に比べると意識的な操作が難しいのですが、はるかに力の量も持久力もあるのです。また安定した優美な手足の動きを可能にします [*]。

特に呼吸や姿勢に関連した運動に関しての脊椎周辺の筋肉の能力の高さは本来驚くべきものの筈です。

私たちは無意識に無意識に横隔膜、鎖骨、肋骨や脊椎を動かしながら呼吸しますし、そうした中で絶えざる変化の中で常に無意識にバランスを取っています。しかも転びそうになると自動的に補正をします。そうした無意識のバランス補正ができなければ、いかに手足が健康でも、歩くことは勿論、立っていることすらできないのです。

呼吸や姿勢は小脳が司っているので、意識に上ることはあまりありません。しかし、その継続時間の長さと必要な力を考えれば、そうした運動を可能にしている脊椎の能力がいかに高いのかが分かるかと思います。

昔から「肚で持つ」とか「息で持ち上げる」などと言いますが、これは呼吸に関連させ脊椎周辺の深層筋を利用するための意識なのでしょう。こうした意識を利用して、昔の人は歳をとっても重い物を長時間運べたのでしょう。

使えない深層筋がコリになる

そうした深層筋は意識に上ることが少いので、強い力を持続的に使用する必要のない多くの現代人は、深層筋を利用できていません。

それ故、巨大な力を持つそうした筋肉は凝り固まっています。

肩凝りや腰痛などの多くの場合は、こうした深層の意識しにくい筋肉が緊張状態になっている為に起こっています(勿論、構造上の疾患の可能性もあるので医師の診察が必要です)。特にストレスや不安、怒りなどの心理的緊張が、そのまま深層部の筋肉を緊張させている場合もあると考えられます [1]。

高い能力があった場合、それを使わないのは無駄なだけじゃなく、苦痛すら生んでしまうのです。

柔軟体操で脊椎運動に慣れる

それではこうした脊椎の力を上手に利用するにはどうしたらいいのでしょうか。

本当は若い時から重い物を長時間、正しい姿勢で持ったり運んだりするのが一番です [2]。自然に呼吸で運ぶ息遣いを学べます。

ただ、それは成年した人には酷な話ですし、第一、急にそんなことをすると身体を壊してしまいます。

そこで成年に向けた様々な方法があります。イメージ訓練や呼吸法、そして立禅や坐禅など一定の姿勢を持続させるなどの方法がすぐに思い付きます [3]。

しかし、こうした方法は具体的な大きな動きがないので文字で説明しにくい上、それなりに一人でやっても手応えを感じにくいかもしれません。こうした方法はお近くの武術、気功、ヨーガ、瞑想、坐禅などの教室に通って長く続けてみるのがよいでしょう。

そこで、これからの連載では柔軟性を高める運動をする中で、深層筋の利用を促してゆきたいと思います。シンプルでゆっくりとした柔軟体操なら、安全に深層筋のコリを開放してあげられると思います。また、伸ばす中で意識しにくい深層筋の存在を意識できることと思います。

ゆっくり、静かに、気持ち良く

コツはゆっくりと小さく動かすことです。

せわしなく動かしたり、大きな動きであったりすると表面の動きにばかり意識がいってしまい深層に意識がいきません。静かに、小さな力の動きをしばらくすることで深層の動きがつかめるのです。

大きく動かすと「いかにも」という気分にはなりますが、効果は出にくいです。大きくて、せわしない動きには緊張がつきものだからです。目標は深層部の弛緩なのですから、心身を緊張させる「いかにも」な体操はやめて下さい。

また安全の面からもゆっくりと静かに動かせてあげて下さい。そして無理に曲げたりしないで、気持ちいい程度に動かして下さい。繰替えしますが緊張させても仕方ないのです。

残念ながら、このブログはあなたの結果に対して何の責任を負うこともできません。とにかくゆっくりと動かして下さい。これは効果を出す一番の方法でもあるのですから。

notes

[*] 脊椎による動きと音楽については音楽における「白さ」についてを参照下さい。

[1] 怒りとシコリの関係については体の中の心 - 感情は実在するかを参照下さい。

[2] 長時間、意識して歩くことによる身体感覚の補正については体の動きに気づいたを参照下さい。

[3] 意識的な姿勢や呼吸による身体意識の補正についてはできることは自然の観察のみ行住坐臥 (1) はじめにをご覧下さい。