2006-11-12

鴎外感想メモ

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『渋江抽斎』ある種の気後れがありながらも、知的で闊達な足取りで晴れ晴れしく朗らかに歩む鴎外の文には実に気分が良くなった。けど、それも俺の感覚じゃあ前半戦でおしまいだった。(いや、でも文体の魅力をもろに感じたのは生まれて初めてのことで驚いた)

『雁』『ヰタ・セクスアリス』はフィクションの見せ方に面白さもあり、また当然に『渋江』にも近い乾いた文体の魅力もあるけど、「はまる」には少し短かいな。

『興津弥五右衛門の遺書』『阿部一族』という時代物は彼の問題意識の中心であったであろう殉死が描かれ、描写は価値観の無常さを滲み出しているように俺には感ぜられたし、読み物として非常に面白かったが、殉死や忠義、名誉、面子の問題は俺にはそれほど無く、どうしても読む際に『ああ、この時代の人だしな』という心理的な翻訳が必要になる。

『舞姫』『普請中』の恋愛は俺にはちとつらい、な、うん……。あと『高瀬舟』『山椒太夫』はそれほど興味をひかなかったかな。

毛色の違うのとして『妄想』は彼の知性と国・学問・哲学の悩みが表出されてて面白かった。高校の時に読みたかった。

家や国を大切にし、現代医学からひいては日本、東洋の学問の全てを背負い込み、それが故に苦しんだ鴎外の気持は結構痛いほど分かるんだけど(本当だよ!)、俺は結局、<家=親父>も<国=会社・役所>も<学問=大学?>も全部が全部投げてしまったからね。

いや、気楽に投げたんじゃないんだよ。親の腸を素手で抉る程の覚悟と苦しみがあったよ。だから鴎外の伝統価値観と真理探求心の中での苦しみは本当に良くわかるんだ。

でも、俺は結局投げてしまった。どんなに苦しいとは言え投げられたということは投げられるほどの問題だったんだと言えるよね、俺にとっての家と国の問題は。一方で陸軍の医者のテッペンになっちまう鴎外とは全く違う。結論から言えば全く違うと思う。