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Simple is best.
── この言葉を私が理解したのは、完璧さを追い求めて苦しんだ後のことだった。そう、その夢は敗れた。複雑にするのは簡単であり、シンプルに保つのは難しい。では、どうすればいい? 現在、その一つの答は「フロー」と「ストック」の区別であると思っている。
ストックとフローの混同が混乱の要因
常に部屋が散らかっている人がいる。きっとあなたの周りにもそうした人がいるだろう。少し観察してみれば分かるが、そうした人にはいくつかの傾向がある。
観察を通じて私が気づいたことは、物を「フロー」させているのか、「ストック」しているのかが分かっていないということだ。
- フローとは流れるものであり、比較的短時間で流入し、廃棄される。
- ストックとは溜めておくものであり、比較的長時間存在する。
どういうわけか掃除下手はフローのものをストックしてしまい、ストックがフローにうずもれている。そして「掃除する」と言うと、フローを手に取りにくい配置に付かせてしまったり、ストックを手に取りやすい場所に並べてしまったりするのである。
また、家具というストックを「模様替え」と称して動かすことを「掃除」と勘違いして、ちっとも部屋が綺麗にならない人が読者の周りにもいると思う。そうした部屋には決まってフローに対する「受信箱」や「避難所」は存在しない。
はっきり言ってフローを「元に戻」したって意味はない。そうした部屋は使いずらく、結局はすぐに混乱する。そして「俺はきれいな部屋だと仕事ができない」とか何とかぬかすのである。適当に片付いた部屋は美しいだけでなく、効率的なのであるのだが。
フローは目のつく場所に
フローへの適切な対処とは常に廃棄し続けることである。その為には同種のフローを一箇所で受け止め、適宜、必要なストックを抽出し、早急に廃棄するシステムを確立すればよい。
基本的に、フローに対処する場所は手に取りやすく、操作に手間がかからないことが肝要である。フローを手間のかかる場所に入れてしまうと混乱が生じ、ストックされてしまう。これが所謂「ゴミを溜めこむ」現象である。
ストックの場所は正確に
次にストックに対しては、比較的手間のかかる場所でもよいから、正確に配置を決定し、使ったら戻すことを励行することが肝要である。ストックを流動的に部屋に転がすと混乱の元である。
おおまかなルール
こうした問題に対処するルールは簡単でありシンプルと思う。
- 「受信箱」と「その他箱」を作る。
- 収納スペースが保有数を制限する。つまり、新規参入は常に古参廃棄を意味する。
- 配置決定に際しては、床に一度ぶちまけて、グループ分類してゆく。引出しも床に並べる。
- 配置を決め、床と机など作業スペースの上には何も置かないようにする。
これをもう少し詳細にリストすると以下のようになる。
- メモはメモ帳で受けとり、メモ帳が使い終わると廃棄される。
- 書類はトレイで受けとり、ファイルにストックされるか、廃棄される。
- ファイルは棚から「押し出」されて廃棄される。
- 書籍は本棚から「押し出」されて廃棄される。
- 服はタンスに配置され、季節毎に押入かゴミ箱に向かう。
- 小物は引出しなどに散在し、たまに捨てる(難しい……)。
- 家具は床に配置され、壊れたら廃棄される。
- 道具は引出しに配置され、壊れたら廃棄される。
さて、それでは個別に考えて行こう。
1. 壁は何もつけない
基本的に、壁には何も付いていない方がよいと考える。
特にフローの情報を貼るのは最悪の結果となる。
よくコルクボードや黒板を利用して情報を目につかせようとする人がいるが失敗する。何年も前のライブのフライヤーなんかを貼るのがオチである。また、その周囲にヘンテコなオブジェかなんかを付け出したら、センスの悪さを主張するだけである。部屋にボードは貼るもんじゃない。
壁にフローの情報を貼るのがダメなの理由は、手間がかかるからである。磁石やらピン、画鋲、あるいは水性ペンやチョーク、黒板消し……こうした道具が即座に取り出せ、かつ、仕舞えない限り、黒板やコルクボードの類は機能しないのである。こうした環境を維持管理コスト対効果を考慮すれば、個人での利用に向かないことが分かる。こうした道具は複数の人間に情報を周知する必要があるときにのみ、意味を為すのであり、個人で使う道具ではない。個人の情報管理はノートで充分である。
壁にストックされる情報源といえばカレンダーや時計だろう。これくらいは壁に備えてもいいかもしれないとは思う。ただ個人的には、どちらも卓上の物を利用した方が、作業中に見やすいし、カレンダーなら書き込みも楽だ。それにシンプルで実用的なカレンダーを貼って予定を書き込んでおくのも見た目が悪いし、かといってアートなカレンダーを貼るのも難しい。また、自分の部屋なのに、時間や日付を確認するのにガバっと振り返るのもアホだろう。カレンダーよりも予定帳や日誌を利用した方がよいと思う。
あと壁のストックといえば、ポスターや心得書きなどがあるが、これも勧めない。壁面が余っていて寂しいからという理由でヘンテコなポスターなど貼るべきではない。そのままであれば品位のある空白であったろう壁面が一気に安っぽくなる。もちろん、それなりのポスターなどを選べればいいのだが、これが結構の出費と探す手間を覚悟しないと難しいのである。簡単には、有名画家のレプリカを額付きで買えばいいのだが、これも日本の住宅事情では浮いてしまう可能性も高い……。言うまでもなく自作の心得書きや書なども余程自身がなければ、やめた方が無難である。
2. 机周りのフローはトレイに、引出しにはストックたる道具のみ
机はフローが激しく混乱しやすい。かといって、道具というストックも豊富に存在するので、掃除ヘタは必ず机周りでコケるのである。
フローに対しては散在させず、一つの書類トレイを準備しこれに当て、適宜、ファイルしてストックしたり、捨ててゆくことが大切である。また引出しはストックの場所と心えて、道具しか入れないこと。そして机の上は純粋に作業スペースとして確保することである。
まず、百円ショップに行き、引き出しをしきるプラの板とペーパートレイを買って、スーパーで段ボール箱ももらってきて欲しい。
そしたら、机の上、引き出しの中の物は全て一度段ボール箱に入れ、捨てられる物は捨て、最低限必要な物を取り出した後、日付を書いて押入に放り込む。そして、その箱が一年たったら箱を開かずに捨てる。これでスッキリした筈だ。掃除の基本は、まず、おもいきってゼロにすることである。
次に引き出しの中をプラの板やトレイでしきり、そこに最低限の道具をしまう。使う道具を選び、ゴミをしまわないこと。なにより道具の場所はきちんと確定すること。場所の確定がゴミを紛れ込ませるのを防ぐ。
深い引き出しにはファイルくらいは入れてもいいが(というかファイルを入れるためにあるのか)、他の引き出しには絶対に道具以外は入れるないように。特に引き出しにフローのものを入れると確実に破綻する。理由は引出しの開け閉めが手間だからである。
ペーパートレイを机の上なり、本棚なりの上に置き、これを未整理の書類入れと確定し、それ以外の場所に書類を置かないようにすること。また、このトレイ内の書類は適宜ファイルする習慣を作ること。また捨てたらいいのか分からないものに対する、一時非難トレイも作っておくとよいだろう。
机の上は理想的には何も置かないのがベストである。ただトレイやペン立て、ノートを置く必要もあるだろうし、更にファイルや本、カードボックスを置く必要もあるかもしれない(私は机のそばの本棚にそれらを置いているが。ちなみに、日付スタンプも置いている。日付を入れるのが楽である)。最低限の道具以外には置かないようにしたい。
書類フローをトレイとファイル・システムで対応できるようになれば机の混乱は無くなると言っても過言ではない。そして、道具の配置を決定し、そこに戻すように心がければスッキリとした作業ができると思う。作業後には、書類はトレイかファイルにあり、道具は所定の場所に戻るので机の上には何もなくなる筈である。
3. 床には家具しか置かない
床には家具以外は置かないこと。マガジンラックなどは、フローとストックを混乱させるので捨てるべきである。またタンスの上や押入などに一時避難場所を作ることで床や机に物を置くことを避けられるだろう。これも床の上は机の上と同様に考えておくとよいと思う。
4. 服はタンス内の配置を決めて対処
服は一定期間内ではストックなどだと捉えて対処する。故に配置を正確に決め、収納できない分量をストックしないことが重要である。
まず、床の上に全ての洋服を畳んで並べ、それを種類別に分類する(ウール、セータ、下着……)。そうすると明らかに着そうにない服がゴロゴロしているだろうから、捨てるものは捨て、捨てられないなら段ボール箱に日付を書いて押入に放り込む(一定期間経過後廃棄)。
今が夏なら冬物は押入にしまい、夏物のみをタンスにしまう。この際、タンスの引き出しを全部床に並べて、最善のしまい方を探求すること。そして、種類別の配置を決定した後は、それに従うこと。これは机の中の収納と同じである。
もし、しまえないならタンスのサイズか服の量に問題がある。あるいは、夏と冬ではなく、春夏秋冬で入れ替えが必要なのかもしれない。
単位季節あたりの服の量はタンスの収納力よりも小さいことが必要である。つまり、タンスの追加を考えない場合、服を買ったなら捨てる必要があるということである。このことを肝に命じないと、必ず服の管理は破綻する。
4. 書類はクリアホルダとボックスで管理
ファイルしなければ書類は溢れる。トレイの上の書類は即座にファイルに組み入れることが大切である。またフローの書類なのかストックなのかを見分けることも大切である。
まず、安くクリアホルダを大量購入し、剥せるラベルとファイルボックスをいくつか購入しておく。書類をホルダにはさみ、ラベルを貼り、それをボックスに入れればよい。立てるだけで整理したと考えて差し支えない。あとは、そのボックスの置き場所を机の上か本棚、あるいはその両方に作ればよい。
これで押し出しファイルシステムになるので個人のフロー書類の管理にはこれで万全である。使ったものを手前にしまい続ければ、自然に使わないファイルは遠くに流れてゆく。たまに遠くに流れたファイルを見て、捨ててしまえばよい。
あとは少数のストックの書類を他の場所にインデックス式に管理しておくと更に万全である。勿論、そうしたホルダに目立つ印をつけておけば、押し出しファイルの中に入れておいても、さほど問題はないだろうが……。
5. メモは二冊のノートで管理
とにかくメモは散在させないことが大切であり理想的には一冊のノートで対応するのがベストだと思う。ただ、スケジュールはカレンダーになっていた方がみやすいので、その併せ技がベストと思う。
A5かB5の開き易いノートを購入し(パタンと閉じるのはダメである)、常に机の上には置いておき、それに一切を書くのがよい。使う前にページ番号をふるとよいことがあるかもしれないが面倒なら別によい。これが、メモ情報の受信箱となる。
次にスケジュール帳も準備しカレンダーの代わりに開いておくとよい。できればTODOも書けるのがよい。別に書けなくても、余ったページに書いたり、ポストイットを貼ればすむ問題なのでどちらでもよい。
この二冊で、メモ、スケジュールとTODOを全部管理してしまえばよい。机の上に広げられることや、持ち歩きに便利なこと、デザインが気にいることが大切である(アドレスブックも必要だが、これはPCで管理すればよいだろう)。
時間の管理には「野性的感覚」を必要とすると私は信じるので、電子ツールは適さないと思う。またアイディアを練る時も同様の理由から電子ツールは適さないと思う。まあ私がオッサンだからであり、若い時からそうした道具に親しんでいる人は違うのかもしれないが。
ちなみに、メモ帳からカードを作ってカードボックスでごちゃごちゃいじったり、PCのアウトラインエディタやデータベースなどで管理するのもいいと思う。
6. 本の管理
まず一般には蔵書管理なんてことはしなくてよい。本棚における物理的存在で充分である。
ただそれは本をストック的に管理できる場合のみであり、全ての本を本棚に置けない時、本をフローのように扱う時に問題になる。段ボールにしまった本や捨てた本は、やっぱりカードにでもしておかないと記憶のかなたにすっとんでしまう。一時は蔵書命みたいなことを吹聴していた私も住宅事情の前には敗北するしかない。
こうした問題に対処すべく、簡単な読後感や要点を書いたカードを作るのもよいだろう。同様に図書館で読んだ本や立ち読みで読んだ本もカードにしておいた方がよいだろう。書誌情報はインターネットで簡単に取得できるので手で書く必要はないと思う。
ネットの蔵書管理のサイトを利用すうのもアリといえばアリだが、カードをボックスのなかでいじっていた方が記憶に残る気がする。身代わりは、いかに情報が少なくとも、やっぱり物理的存在の方がよいと思う。
ただ、それも読む分量が一定の時であり、カードを作るのは手間である以上、フローに対処するには向いていない。結局は破綻するのだから、そんなもんだと思って気楽に考えるのがよい。どうせ全てを記録はできないのだから。
7. オーディオ、テレビは物理的に存在させる
テレビは捨てろ……と言いたいが、必要ならば、しかるべき家具の上に鎮座せしむるべし。個人的にはPCで見るのは、かえってダラダラと見てしまうんじゃないかと思う。ダラダラでなければきちんと時間をとって見るのはよいと思う。
オーディオは専用の器具を利用するのがベストと思う。一時はセッセとmp3やらflacやらにしてHDに溜めこんだが、やはり電子化し仮想的な存在というのは扱いずらい。というか、音楽がタレ流しになってしまう。CDという物理的な制約が「聴く」という行為を意識的にしてくれる訳で、タレ流しも防止され、「聴く」楽しみも逆説的だが増す。
同様にCDをデジタル化して物理的に不在にしようとしたが、結局はCDは並べておいて、そのジャケットを眺めながら音楽を選んだり聴いたりするのが楽しいという結論になった。
たぶんDVDとかもデジタル化するよりは物理的に存在させとくべきかと思う。
8. 小物はフローかストックかを特に意識して管理
文房具はストックの道具であるので対応が簡単だったが、小物はその性格が難しい。
「うわ! これいい」と思って買ったものが、早くも一週間もたつと新鮮味が薄れ、三ヶ月も経つと「?」になるのである。そういう意味ではフローであるので早急に廃棄すべきなのだが、一度ストックしたものを人間なかなか捨てられないのである。また人から貰ったり、思い出の品だったりと掃除の敵の中でも最もタチが悪い。
連休の一日目の朝に、部屋の小物(小物と言うが大きくてもよい。要らなそうな家電とかも)を一度床に並べてみるとよいかもしれない。そして、それを分類して、捨てられるなら捨て、次に収納の引出しを並べて、そこに配置してゆく……。これは服の整理と同じ作戦である。
ただし、服であれば季節毎に流動させ一定期間ではストックと捉えるという作戦は功を奏するが、小物は季節も何もないので、意識して捨てる必要がある。これが難しい。
一度、何もなかったことにして段ボール箱にしまって、廃棄予定日付を書いて押入に入れるのもアリとは思うが、本質的に使うアテのないものだから捨てるのが分かりきってる以上、この作戦を遂行するにも心理的葛藤があるだろう。
ただ言っておくが、三年以上一度も使わないものは、恐らくその先の三年間も使わないであろうし、十年先も使わないだろう。いや一生使わないだろう。一生使わないものを何故保管するのか? 使わないならゴミではないのか? ならば理性をもってして、怠惰に流れる情緒に一撃を加えるべきである。さあ、立ち上がれ!
とはいえ……やっぱ……。
まあ、完璧な片付けは人間できないものである。そこは、仕方ない。あきらめよう。
おわりに
考えてみれば、掃除とは、メモ、書類、書籍、服、小物、家具などを部屋に流動させることなのだろう。その意味では全てはフローしている。ただ、それを一定期間においてはストックとして配置を決め、使ったら戻すことで対応する。しかし、それも、用途を終えたら廃棄する流れの中にあるのである。掃除下手とはゴミを溜めこむ人間であり、廃棄の流れをどこかで切ってしまう傾向を持った人間なのだろう。