2007-07-08

[書評] ヨーガ・セラピー / スワミ・クヴァラヤーナンダ + S.L.ヴィネーカル

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インド政府厚生省の要望で書かれたヨーガ療法の教科書。ヨーガ療法に興味がある人は必読と思う。

本書を見掛けたのは図書館だった。ヨーガ・セラピーというタイトルといい、黄色のポップな表紙といい、若い女性向けに書かれたちょっとオシャレな内容の薄い本であろうと思い、しばらく手に取らないでいた。

偏見であった。本書は信頼できるヨーガ療法に関する教科書であった。なんと言ってもインド政府の要望によって特別に書かれた本である。更に推薦文を文化勲章受賞のインド学、仏教学の権威、中村元博士も寄せていることから、ますます信頼度は高いと言える。

中村によれば、著者のクヴァラヤーナンダはインドの伝統的な学問を充分に究めたヨーギであり、その上、近代科学の計器による測定・検討も行っている。「クヴァラヤーナンダ師が創立したヨーガ研究所 カイヴァルヤダーマは、世界諸国のヨーガ研究者たちのいわばメッカとなっている」。

また木村慧心によれば、1920年代に創設されたカイヴァルヤダーマ・ヨーガ研究所は、医学研究所や病院、ヨーガ大学、図書館等の施設を伴なった世界で初めてのヨーガ・セラピーの研究施設であり、この分野をリードしてきたとのことである。

内容は以下の目次の通りであり、特に精神や神経の疾患に対してのヨーガ・セラピーの原理と実践を医学的な誠実さを伴なって丁寧に説明してくれる。その中に迷信じみた説明は見られない。

第1章 ヨーガの病気観とヨーガ・セラピーの原理
第2章 正しい心の姿勢を培う
第3章 精神生理的メカニズムの再調整
第4章 身体浄化法、食事の原則
第5章 瞑想—すばらしい精神安定法
第6章 ヨーガ・セラピーの実践

特に興味をひいたのは、何故、ヨーガが心の安定を生むのに役立つかを、大脳や神経、筋肉などの医学的な説明で極めて丁寧に説明してあったことである。その説明の中で、ヨーガをリラックスした状態で静かにやらねばならないことが理解できた。「アーサナの生理的効果は、運動の生理学である運動学の原理にもとづくのではなく、姿勢の特徴である静的緊張反射の原理にもとづいて考えなければな」らないのである。ここにヨーガがストレッチやエアロビクスと一線を画す本質があるのかと思う。勿論、呼吸や瞑想の説明も素晴しいが、アーサナに関するこの部分だけでも必読の説明である。

また、説明の誠実さだけでなく、視野の広さも素晴らしい。本書は、アーサナ(坐法)や調気法(呼吸法)、瞑想法などの一般的なヨーガのテクニックの他に、一般にはあまり知られていないであろう鼻や喉などの呼吸器や内蔵を清浄化するヨーガのテクニックも掲載している(以前にハタ・ヨーガ・プラディーピカーを読んだ際に目には入っていた)。勿論、実際に行う際には専門家に相談すべきだが、ヨーガ・セラピーの幅広さを感じられるだろう。

ヨーガの書籍は沢山ある。勿論、伝統の人の本を読むのもよいが、まずは近代科学の検討を経て整理・解釈された伝統の教えを、本書で知るのがよいと思う。