2007-03-26

アドラー『本を読む本』で基本的な本の読み方を学ぶ

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読書術についての古典的な名著であり、一度は目を通しておくべき本かと思う。本を読むことに新しいも古いもないので、内容的にはいま読んでも古い所は全くないし、逆に古くなっているところに、私たちが失いかけている大切なものを読み取ることができるかもしれない。

四段階の読書

本書においてアドラーは四段階の読書を提唱している。

一つ目は「基本読書」。すなわち、本当の基礎となる単語や文法に基づいて読むということ。これは基本中の基本。

二つ目は「点検読書」。書名、目次、序文、後書き、後付けなどから、本の内容、対象、程度などを点検するというもの。この段階を確実にすることで無駄な本を読む時間を減らせる。

三つめは「分析読書」。いわゆる精読であり、二つの方向から書物の内容を自分で再構築するというものだ。

片方はトップダウンな理解だ。つまり、著者の主張から、その本のアウトライン、著者の問題などを理解してゆくというもの。もう一方は、ボトムアップな理解であり、キーワードを探し、著者の用語と和解し論証をチェックしてゆき、大きな著者の主張を確認してゆくというものだ。

このトップダウンの理解とボトムアップの理解はある程度の次元で出逢うわけで、そこまで読み込むのが精読ということである。そして、こうして読めたら批評をするというのが読者の義務になるということだ。

四つ目は「シントピカル読書」と呼ばれるもので、この本の目玉といえるだろう。この読書法は、ある一つのトピックに対して、複数の本がどういう返答をするかを読み取って、その答を統合してゆくというものだ。手順としては、ある質問を設定し、その質問への回答を提供する本を探す。そして、必要な部分を読み込んで、複数の書物の間で概念を整理する。最後に、その書物から読み取れた答を組み合わせてゆくという流れになる。書物の側の論理の流れではなく、自分が設定した問題意識に対して本を従わせる主観的な読書ということができると思う。

客観的読書から主観的読書へ

さて、こうしたアドラーの読書法を振り返ると、清水幾太郎『本の読み方』と大枠が同じ事に気付く。

清水は客観的読書法から主観的読書法へと変化したと述べていた。つまり、丹念に客観的にノートをとっていたのが、テーマや問題意識にそって、あくまで自分を主体に本を読むようになったということだ。これはアドラーの「分析読書」から「シントピカル読書」への移行と同じことだろう。

本を読むのが時間つぶしでなく、問題を解決のためであるならば、その問題意識を明確に読書するのが有益なのは明かだ。

ただし、この本で清水はそれでもやはり客観的に著者の主張を拾う読書の時期がなければならないと述べていた。つまり、精読ができなければ複数の著者の意見を組み合わせることなどできないわけで、最初から主観的読書やシントピカル読書をするというのは現実的ではない。

私は、アドラーの順番で必要にせまられながら、自然にステップアップしてゆくのがいいのだと思う。無理に読書の能力を高めようとしても得る所は少いように思われる。

シントピカル読書を可能にする「シントピコン」

アドラーはシントピカル読書のためには、まずそのトピックを扱った本のリストを探すのが困難であると指摘する。ある程度の良書を読まなければ良書かどうかを理解する点検読書の能力はつかないものであるが、最初は点検読書の能力がないからどれが良書が分からない。

アドラーはこの問題に対し、名著の主題項目索引を作ることで少しは解決するだろうと述べている。これを彼は「シントピコン」と呼ぶ。この索引では世界の名著について、例えば「愛」が論じられているのはどの本の何ページかが記されているのだ。読者は、この索引から主題を選び、その主題に対する、天才の議論を効率よく読むことができるのだ。

この「シントピコン」は夢物語ではなく、実在する。『Great Books of Western World』の索引がそれである。アドラーはGreat Books of Western Worldたるべきテキストを選定し、トピックについての索引を作成したのである。

私は購入していないので詳細は分からないが、ブリタニカ・ジャパンには以下のように書いてありとても有益そうだ。

グレートブックス・オブ・ザ・ウェスタン・ワールドは過去の歴史的作品から20世紀の傑作まで、それぞれの作品・作家を紹介した西洋史コレクションとも言えるものです。西欧世界の1.文学 2.数学 3.歴史・社会学 4.哲学・神学などの諸分野の著名な作品517編・作家130人を収めた大全集です。また、グレートブックスならではのシントピコン索引は、知識のデータベースとして活用できます。

こうやって方法論を吟味し、かつ、実際にシステマチックな教材も作りあげてしまうところに、いかにも古きよきアメリカを見る気がするし、そうしたアメリカの底力を感じる。

notes

精読については 本全体を把握する本の読み方 という記事があります。

シントピカル読書については 一つの問題についての並列読書 という記事を参照ください。


本を読む本

  • モーティマー・J. アドラー、 C.V. ドーレン
  • 講談社
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