2008-10-30

感情を言語化することで心が穏やかになる

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自分の行動や感情などを意識的に言語化すると、恐怖や攻撃性に関係する扁桃体の興奮が収まるらしい(» The Science of Mindfulness Meditation - Psych Central News)。

このことに関連して、瞑想や鬱病などについて、最近思うところを雑駁に書いてみる。

気付きの瞑想

ヴィパッサナー瞑想という瞑想がある。これは自分の行動や感情を意識的に言語化する瞑想で「気付きの瞑想 (Mindfulness Meditation)」とも呼ばれる。元来、仏陀が教えた瞑想とのことから「仏陀の瞑想法」とも呼ばれ、スリランカやビルマなどの南伝上座部仏教が2000年以上も受け継いできた瞑想法である。ヨーガなどとも組合せて学校の情動教育の一環、あるいは第三世代認知行動療法として精神病患者の治療や犯罪者の教育などにも利用されている国もあると聞く。

さて、この瞑想における感情や感覚に気づいて言語化することを「ラベリング」とか「サティ(気づき)を入れる」と呼ぶのだが、このラベリングをすることで扁桃体の興奮がおさまることが実験で分かったらしい。

扁桃体とは人間の恐怖心や攻撃性を形成する部位である。つまり、ラベリングによって扁桃体の活動が弱まるということは、不安や憎しみが柔らぐということである。

この研究によって、ヴィパッサナー瞑想が、少なくとも「不安や憎しみを沈める」ということは示されたということだろう。

頭がすっきり、心が穏やかに

さて、実は私はヴィパッサナー瞑想を生活に取り入れて三年になる。始めた二、三週間で劇的な効果があって以後つづけている。胡散臭くしか言えないのだが、本当に頭が明晰になり、感情が穏かになったし、疲れにくくもなった気がする。この変化は短期的に起こったため、この瞑想による変化がなければ当時の苦境を凌ぐことはできなかったものと思い感謝している。

しかし、この瞑想の瞑想の変化は人に説明しづらい。「俺、筋肉ついたぜー! ほら、こんなの持ち上げられるぜ!」という変化ではないからだ。自分の頭脳の変化や感情の変化というものは客観化しにくい。

しかし、今回読んだラベリングで扁桃体の活動がおさまるという記事を真に受けるならば「なるほど」と思う。ラベリングで感情の不安定要素が取り除かれ、付随して、頭脳の働きが高まるのだろう。扁桃体は短期記憶にも関連するからだ。また、不安の中で眠るよりも、穏やかな状態で眠った方が疲労回復も早いことも間違いない。

ワーキンメモリや「うつ」にも影響

さて、扁桃体は感情だけでなく、帯状回と共に「ワーキングメモリ」にも関係するらしい。ワーキングメモリとはごく短期の記憶である。ワーキングメモリが正常に稼動しなければ、記憶力が低下するだけでなく、ステップ毎に暗黙の内に記憶を必要とする計算や読書などの活動にも大きな影響を与える。つまり「なんとなく集中できなくて頭に入らない」ということになる。

ところで、鬱状態とはこの扁桃体や帯状回などが慢性的に興奮し続ける状態であるとも聞く。だから、不安や攻撃性が長く継続するのだろう。そして、ワーキングメモリが稼動しなくなるのだから、記憶力が落ち、計算や読書の集中力が持たないということになる。ひどい場合には口頭での有意味な会話が出来なくなることもある(会話も短期記憶の積み重ねである)。私はうつ病の「やる気」の問題は情動の問題の他にワーキングメモリの問題もあると思っている。

とにかく、今回のラベリングが扁桃体の興奮をおさめるという研究を信じるならば、鬱病の対策にヴィパッサナー瞑想が有効であるということになるし、「頭に入らない」「気が散る」という問題にも有効なのではないかと思う。

もっと短期記憶を使おう

ところで、やや恥ずかしいのだが、私は以前「脳トレ」として暗算をしてみたことがある。そして驚いたのだが、やったら頭がすっきりとするのである。考えてみれば、こうした「気持ち良さ」がなければ脳トレもブームにはならないはずだ。流行るものには流行るなりの理由があるのだろうと思う。

暗算や音読、筆写は気分をすっきりとさせるということは、もしかしたら扁桃体と関係があるかもしれない。無理矢理にでもワーキングメモリを使うことで、憎しみや不安を取り除けるのかもしれないということだ。全くの偏見だが、記憶力のいい人は感情の起伏が少ないような気もする。

そして、更に偏見なのだが、昨今のコンピュータの普及が暗算や音読、筆写の習慣を奪ってしまった。こうしてワーキングメモリはスポイルされ、結果として扁桃体が過剰な興奮状態になりやすい状況になってしまったのではないかと思う。

結論から言うと、人間は脳をもっと使った方がいいのだと思う。コンピュータの普及で人間は記憶力を使わなくなった。計算もしないし、音読もしない。下手をすると人と話すこともない。折角ついている機能を使わないのだ、これでは脳がおかしくなっても当然だと思う。

よくボケ防止に新聞音読が良いというが、若い人にもよいかもしれないと本気で思う。いや、若い人こそ、音読や筆写、暗算や暗唱をすると、落ち着いた精神が得られるのではないかと思う。もちろん、瞑想も生活に取り入れて。

社会のストレスが増大する傾向がはっきりとしている。私達が今もっとも投資すべきなのは、ストレス耐性を高める技法だろう。

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