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この本ではレトリック学者である筆者が、思考の型を収集・分析することで議論に強くなる方法を描いている。こうした方法は弁論術が隆盛した古代ギリシャ時代より考えられていた方法である。さまざまな弁論家の思考の型を集積し、そうした思考の型のカタログを作成し、思考について深く考えてゆく。こうして天才弁論家の型を効率的に学習することで、議論を有効に進められるというわけである。
ギリシャ人は「思考の型」を「トポス」と呼び、こうした「思考の型」のことを本書の題名にもある「トピカ」と呼んでいた。筆者はこの「トピカ」や議論術の歴史を概観しつつ、タイトル通りの実践的な議論術を促成しようとしていく。
様々な論客や弁論家の鮮やかな論破の方法を辿ってゆくだけでも胸がすっとする事請け合いだ。それに加え、アリストテレスのトピカの解説を始め、論争における常套句の有効な利用方法、反対に常套句への対処法、あるいは、ペレルマンとオルブレクツ=テュルカのアリストテレス研究に基づいた、人が物事を選択・判断する時の論拠についての筆者独自の考察は非常に有益である。
また、筆者は、主にアリストテレス式とキケロ式のトピカを比較する中で、有効なトピカのためには「生の」トピカが有益だと主張する。チェックリスト型であるキケロのトピカよりも雑然としていて本人しかわからないような「生の」トピカが結局、議論には有益であるというのだ。著者はリチャード・ウィーバーの仮説を下に、人には書体があるように、議論にはその人独自の癖があるのであり、自らが気に入ったトポスを多く身に付けるのが最も効果的なのだという。つまり、多くの議論や読書を通じ、自分が気に入った論法や論理を集積・分析するのが議論術を強化する近道なのだというわけである。
ディベートや会議のために議論術・説得術を強化したいという人のほかにも、人がある事柄に対して議論をし、判断を下すということについて詳しく考えたいという人にもこの本は非常に有益である。一読をお勧めする