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本が好き!から本が届いたので早速読んでみた。
これが驚くほど面白かった。こういう機会でもなければ手に取ることはなかったと思うから、このサービスには本当に感謝している。
内容としては、日本人の男が日本人の女にハメられ、アメリカでの監獄生活をするという話。実話らしい。読むとアメリカの裁判制度、監獄の制度のできの悪さに驚くこと間違いなし。
完全に悪夢である。
が、その状況に作者が順応してゆき、最後には何にでも感謝できる人間になっていく様に感動すら覚える。
アメリカ文化を読むのに監獄は外せないだろう。黒人音楽、映画や文学などで監獄は当然のように出てくる。知ってるようで全然知らないアメリカの監獄の姿を、本書では学ぶことができる。
巻末付録として「忘れられない人たち」「許せない奴ら」「ギャングについての基礎知識」「監獄で役立つ用語解説」付き。
まず一番の疑問は「なぜ日本人の男がアメリカの監獄にぶち込まれたのか?」だろう。ちと、詳しく書く。
ことの始まりは、40手前の作者が東京のレストランで若い女の子に恋に落ちたことに始まる。二人は婚約をし、会社の都合でアメリカに行くことになると、彼は彼女を連れアメリカで暮らす。彼女は将来は美容の仕事をしたいということで、語学学校に通うことに。
ところが9ヶ月も暮らすと、会社から今度は日本に戻れと言われ、彼は彼女を一人アメリカに残し帰国する。そして、彼と彼女は、電話やメール、それに月に2、3回の出張のみのコミュニケーションとなってしまう。
残念なことに、彼が居ない間に、アメリカに一人の彼女は身を崩してしまう。
彼女は、ビバリーヒルズの部屋を引き払いハリウッドに移り、語学学校はやめ、バイトを始めていた(彼女は学生ビザで入国しているため違法)。生活資金を全て賄っている彼に断りもなく、である。
服装は華美になり、男関係の乱れも彼は感じるようになる。
彼は怒るが、海を越えては限界がある。
愛に燃える彼は仕事を辞め、アメリカへと渡る(空手の道場を開いた)。
しかし、渡米しても状況は変わらない。状況は悪化の一途。彼女とは別居であり、ふしだらな噂を耳にすることになる。そして喧嘩。
彼が逮捕されたのは、そんなある日のことである。
罪状は「レイプ」(後に恐喝、DV(Domestic Violence: 家庭内暴力)が加わる)。保釈金は20万ドル。求刑は16年。
こうして、無実の彼は身柄を拘束され、手際が悪く、犯罪者の巣窟であるアメリカの監獄を渡り歩くことになる。
ちなみに、レイプ、幼児虐待、密告などは「グリーンライト」と呼ばれ、リンチの対象となり刑務官も見て見ぬふりをするらしい (本書でも、「密告」のため、リンチで死ぬ人間が出てくる。また、付録には、ジャンキーの日本人(20歳)もリンチされ、救急病棟に運ばれたとある)。そのため、レイプで捕まった彼は生き延びるため「ゲイ」のふりをしたりもする。
それにしても無罪の男をどうして彼女はこうも告発できたのか? 私の憶測に過ぎないのだが、最初は関係を持った男に入れ知恵された程度に思っていたが、裁判では証拠書類を偽造していることから、犯罪組織と関わりがあるのではないかと思う。彼女の現在の安否がとても心配だ。
監獄での細かい生活は本書を参照してもらうとして、特に気になったことをいくつか。
まず何よりも Public Defender (公選弁護人) が検事と同じ公務員で、検事の後輩という関係にあること。そのため、公選弁護人は検事に敵対しにくく、故に、誤認逮捕で損害賠償ということになるのなら、嘘でも犯人にしてしまうということにもなりえるとのこと。
本書では作者に無断で公選弁護人は四回もたらい回しにされ、面会でもヴィデオチャットを通じてのものであり(しかも相手の顔は映らない)、作者の側の話はほとんど聞いてもらえなかったらしい。しかも当日はその弁護人は欠席し、代理が出廷した。
そして、司法取引とかもぐちゃぐちゃな制度に思えた。とにかく圧倒的に被疑者に不利な制度に思える。
作者は、友人に頼んでちゃんと弁護人をつけた訳で、こうしたことができなかったら作者がこの本を書くことはなかったかもしれない。
そして日本でも同じなのだが、推定無罪の原則なんて全然実現してないこと。捕まりゃ完全犯罪者あつかい。
保釈金があるが、これもレイプは一律20万ドル、10%しか払わないでもでも出られるが、それだとその10%は没収というのは、単純に普通は払えない。そして払えないで監獄にいることで、裁判でも当然不利になる。
「金額が逃亡の抑止力になる」と言うが、結局、金持ちはポンと払って逃げる可能性だってある。せめて相手の所得に見当った保証金の算出くらいしてもいいと思う。あるいは口座凍結など方法はいくらでもあると思う。また、それ専用の金融を国が準備するとか。
現代ならお金で抑止するんじゃなくても、発振器を外せないように取り付けることもできるんじゃないだろうか。
結果として、作者は無実を晴らさず、ドメスティック・バイオレンスで郡刑務所で一年、五年間の米国への入国禁止、保釈金200ドルという条件で、司法取引に応じた。無罪を狙うというのは現実的ではなかったという判断だ。
アメリカと日本で制度が異なる。現段階では日本の方が幾分もマシに思う。
しかし、犯罪者が増加した場合の将来のことは分からない。この先の日本の司法制度がどのように変遷してゆくかを考える上で、とても参考になる体験談であったと思う。
無実の罪で告発される可能性は誰にでもあるだろう。そう考えると「推定無罪」の原則を実現し、また、無罪をきちんと立証できる制度を構築してもらいたいと、私は心の底から願う。
- 高平隆久
- 草思社
- 1470円
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書評/ルポルタージュ