2007-09-15

曲げようとしないで曲げること

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「体を曲げる」ときには、曲げようとしないことで、更に深く曲げることができる。

「曲げようとしなかったら、曲がらないではないか」と思うかもしれない。しかし、この問をする前にやることがあるだろう。実際に一人で床に腰を下ろし、「曲げようとしないで曲げるとはどういうことか」と問うことである。勘のよい人ならすぐに分かることと思う。

ただ「では考えて下さい」で終わりにしてはあんまりなので書くことにする。しかし、これで分かったのでは、自分の体で気づくという大切な瞬間を逃すことになる。[WEB] パーソナルトレーナー武田さんの感性(ブログ): 「気づき」とはを読んでから、以下を読んでいただけるとよいかと思う。

さて、「曲げようとしないで曲げる」とはどういうことか。

結論から言えば簡単である。曲げるポイントを深い場所にして、それ以外の場所は全力で曲げる方向の逆にするように意識することである。つまり、曲げるポイントだけリラックスして結果として曲げてゆき、それ以外は曲げる方向に対して逆に反るのである。

どうして、こうすると曲がるのだろうか。思うに、こうすことで、それは重力を有効に利用でき、無駄な緊張を解けるからである。

人の体は無意識に伸ばすことを警戒する。過度の伸展は、筋肉や靭帯の損傷の可能性があるからだ。故に、この「警戒」を解くことが重要である。その為には、曲げる場所以外での伸展を極力避ける必要があるのである。

分かりやすい例として長座での前屈を考える。この体位では股関節を曲げて、臀部から膝裏にかけてを伸ばすのがポイントとなるだろう。この際、腰や背中、首等の緊張を避けるため、顎を引き、胸を張り、肚を落とすのである。すると、骨盤が前傾してゆき、重心が前に移動する。結果として、股関節を中心として深く曲がり、臀部や膝裏が伸展される。

イメージとしては、肚が前へ、下へ落ちるようにイメージしつつ、胸を張り、顎を弾いて、体は逆に反ってゆき、あたかも曲がることに抵抗しているように動かすことである。こうすることで、股関節を中心とした部位以外の緊張は解け、同時に重力を利用して曲げられるので、曲げるために緊張することがなくなる。

骨盤の前傾を促進するために、リラックスして体を左右に揺するとよい。肚を落として重心を前に置くことに成功していた場合、これだけで自然に前屈の準備が完了してゆくだろう。

「曲げよう、曲げよう」と思っていると、先に頭や背中を伸ばしてしまうことになる。骨盤は後傾したままであり、故に重心は後にある。重心が後にあるのに、前に曲げようとするから、筋肉を使うことになり、緊張が解けない。そもそも、前屈など緊張していたら曲がるはずがない。

曲げる際に重さを利用して、それ以外を脱力すること、イメージとしては、体を反らすほどに真っ直ぐにして、頭頂を遠い位置へと持ってゆくことである。あとは重さに任せて、リラックスして体を揺すればよいのである。コツが分かると、不思議なほどにすーっと体が曲がってゆく。

思えば、前屈の時に背中を曲げるのが失敗なのである。骨盤を後傾させ、より曲がる股関節を利用しないで、曲げよう、曲げようとするから曲がらないし、痛いのである。股関節を利用するために、股関節の上に体が乗るようにしなければならないのである。

そうして静かに体を見つめ、細かい感覚をゆっくりと味わってみて欲しい。「この感覚は何か」「この痛みとは何か」などと。そこには新しい気づきが待っていることと思う。


冒頭でも教えは矛盾すると書いたが、大概は小手先での動作を戒めるものである。今回も「曲げる」という動作の緊張を解いて、重さを意識的に利用してリラックスして曲げることを書いた。

しかし、結果としての方法を知っていても意味がない。体が曲がろうが、曲がらなかろうが、どうでもいいことである。

むしろ、そうした逆説的な教えを積極的に試して理解していったり、自分の体を利用して、気づきの瞬間を味わうことが大切と思う。体と向きあう時に出会う気づきが、私は面白くて仕方がない。

是非とも「曲げようとしないで曲げる」ということを、本ブログの読者にも試して頂きたい。