2007-01-09

21世紀の経済学がなすべきこと
1. 結論——21世紀に必要な経済観

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始めに本試論の議論を整理します。

本文は第2節で述べられる以下のような問題意識に基づき本試論は作成されました。すなわち、現行の資本の活動は労働者を疎外し天然資源や自然環境を破壊・枯渇させているにも関わらず、経済学に代表される知がなんら有効な対応を取っているようには見えないことです。

経済思想を整理する意味も含め第3 節では資本主義批判の大御所とも言えるマルクスの議論を紐解いてみました。これは彼の使用価値と交換価値の議論と、利潤と剰余価値の関係による労働者疎外の議論の確認という作業になりました。一方で中村の言う現代経済学による「無限の自然」という暗黙の前提も確認しました。この二人の議論から次の結論が導かれました。

  1. 交換価値により財を見ることと無限の自然の仮定は表裏一体であること
  2. 経済学が〈交換価値=無限の自然の仮定〉に立脚していること
  3. 〈交換価値=無限の自然の仮定〉に基づく資本主義批判では労働者疎外の問題を捉えるのが限界であり、現状の経済学では資源枯渇・環境破壊問題は捉えられないこと

確かに労働者疎外に基づいた資本主義批判は当を得たものでした。しかし、現実社会では資源・環境問題が発生した現代では〈交換価値=無限の自然の仮定〉という枠組自体の問題が検討されなればなりません。これは第4 節において論じられ以下のような結論に至りました。

  1. 〈交換価値=無限の自然の仮定〉という発想は経済学だけではなく現実社会そのものの発想であること
  2. 資源の有限性とエントロピー論に基づいた発想を導入すべきであること
  3. そうした新しい発想を経済学が政治や社会に提言すべきであること

長い目で見た場合に上記のような新しい経済学は確かに必要不可欠です。しかし、石油や二酸化炭素の問題は差し迫っており新しい経済学の普及を待つ猶予はないように思えます。そこで第5 節では現状でもできる経済学の暫定的な仕事を以下のように掲げました。

  1. 石油使用の継続による資源枯渇と環境破壊の被害の計算
  2. 太陽由来のエネルギーの導入による経済失速のマクロ経済的損失の計算
  3. 段階的な石油価格の上昇と太陽由来のエネルギーの導入支援金のモデル作成

つまり本試論の議論をまとめると以下のようになります。

  1. 〈交換価値=無限の自然の仮定〉という経済観の打破
  2. 有限かつ環境を破壊する資源を太陽由来のものに切り替えるべく計算すること
  3. エントロピー論と資源の有限性に立脚した新しい経済思想を確立すること

以上を政治や社会に提案し浸透させることが経済学の最優先の仕事になります。これが本試論の結論となりました。


概要と文献

1. 結論——21世紀に必要な経済観 (現在の記事) 2. 序論 — 資本主義の問題に対する経済学の沈黙 3. 交換価値と無限の自然に立脚した資本主義批判 4. 従来の資本主義批判の限界と新しい経済学 5. 暫定的な最低限の処置